「毎日1名定時に帰す」たったこれだけのことが、大きな効果に。働き方改革は現場で、チームで取り組もう

この話は今から約4年前、私、前田が以前勤務した会社の友人の身に起こった出来事です。Iさんとします。(設定は事実に基づきますがプライバシー保護のためところどころ変えています)

「あなた、残業できません...突然の就業制限」

Iさんはカーディーラーの自動車整備工場のリーダーをしていました。
働き方改革関連法が施行される前。毎日3,4時間の残業が常態化していた「よくある」職場です。

定時は1730分ですが、店舗の営業時間は19時まで。
お客様はもちろん来店しますし、営業スタッフも自分の顧客の車の整備をねじこんできたりするのは日常。マネージャーもそれに対しては何も言いません。

Iさんは現場リーダーとしてその状態を「困ったな」と思いつつ「こんなもんだ」して、
取引業者や法人顧客対応がなくなる17時からを“落ち着いて”仕事できる時間としていました。

ところが彼はその年の健康診断で異常が認められ、産業医からの意見で「時間外労働の制限」という就業制限がかけられることになります。

つまり、「残業」と「交替での日曜出勤」ができなくなりました。

かくして、リーダーIさんは、「落ち着いて仕事ができる時間」を失うことになります。

Iさんの仕事は、
整備工場と営業スタッフとの調整/整備士の作業管理/自動車検査員としての職務/修理説明などの接客/整備士の相談に乗ること/故障車の診断/報告書(産業廃棄物、保証処理、故障についてメーカーへフィードバック等)/あふれた作業の巻取り/「工場長じゃないとイヤ」というお客さまの対応....などなど、細かい仕事をあげればキリがありません。
残業無しで終われるとは、本人も職場の仲間も考えたことがありませんでした。
しかし、残業はできません。困ったことになりました。

1人の「残業できない」を全体で見直すことで誰も困らない状況に。

リーダーのIさんはとても不安でしたが、定時になれば「必ず帰らなければならない」ので、終わるにはどうしたらいいかを考えました。

【対策❶】自分しかできないことと人に任せられることを区別する
 自分にしかできない仕事は定時内に。人に任せられる仕事は後輩に教えました

【対策❷】対応できる時間を区切って伝える
営業スタッフには17時以降には自分は対応できないことを伝えると、スタッフもそれに合わせてスケジュールを組むようになりました。

【対策❸】夕方に偏りがちな業務を前倒しにする
時間外に回しがちだった報告業務や、夕方以降に偏りがちだった検査業務も前倒しで行えるように全体で協力してもらいました。

その結果、リーダーIさんが定時に帰っても誰も困ることはありませんでした。周りにしわ寄せがいって、他の人の残業時間が増えたということもありません。
工場全体としても、Iさんの就業時間というリミットを意識したために、生産性が向上する結果となりました。

仕事の負荷を減らして、体調を回復したIさんは、無事2か月後には就業制限が解かれました。

メンバーのうちの1人を毎日定時に帰す取り組みをスタート!!

さて、無事就業制限が解かれ、残業ができるようになったIさんは、今回の経験からから1つのことを始めます。

それは「整備士を毎日1名 定時に帰す」ということです。

2か月間、自分が定時に帰っても現場は回ることがわかりました。残業なく帰れることで、家族との時間が取れたり、とてもリフレッシュできるとIさんは実感。これはメンバーのみんなにも必要なことだと考え、整備士の作業管理をする立場を利用して、調整。

やったことは、整備士の名前と時間が並んだ作業管理版に、毎日1名「定時」というカードを差し、それ以降には作業を入れない、たったこれだけのことです。
この習慣は続き、毎日一人、残業無しで帰るようになり、
11名分3時間、工場全体としては結果的に月に75時間の残業削減できました。

さらに、予期せぬ効果として、
Iさんは後輩の整備士から終業後「メシ行きましょう」と誘われるようになりました。
仕事終わりを楽しむ心と時間の余裕が生まれ、職場の仲間や後輩とコミュニケーションが楽にとれるようになったといいます。

働き方改革は、現場リーダーの意識と工夫と思いやりから実現できる!

健康診断の数値が悪くて、一時は不安でいっぱいだったIさん。きっかけは体調不良であったけど、とても良い経験になったと話してくれました。

いま、「働き方改革」を掲げる会社はたくさんあります。しかし、管理部門からの号令を、
「わかってない、できっこない」と現場は冷めた目で見て、何も変わらない現状に頭を抱える職場も多いのではないでしょうか。

Iさんは決して意識高く、会社を自分で変えてやるんだ、というタイプではありません。

それが、ある意味「がけっぷち」に立たされたことをきっかけに、主体的に考えて行動したことで職場全体に良い影響を与えました。

会社をあげて大きな旗を振らなくても、一人一人が主体的に考え行動することで、現場レベルから働き方改革ができるという好事例をご紹介しました。
人事や経営側はこうした現場の好事例を見逃さず、経営まで引き上げ、横展開していって欲しいと思います。

私たちは、一人一人が「がけっぷち」に立たずとも、主体的に考え行動する原動力を「自律的キャリア形成」というアプローチで支援をしています。 ぜひお問い合わせください!!

(キャリアコンサルタント 前田恭子)